別冊いんなあとりっぷ:怪奇・幻想小説の世界


(印刷の不手際によるものでしょうか、表紙の文字が少し傾いています)
別冊いんなあとりっぷ4月号 完全復刻版 「怪奇・幻想小説の世界」
中島河太郎監修 いんなあとりっぷ社 1976 378頁

▼「新青年」掲載の怪奇幻想短篇を、当時の誌面をそのまま複写する形で収録したもの。
幻想文学51号(アンソロジーの愉楽)より転載)

目次の一行説明がなかなかよい味を出していたのでついでに転載しました。

大御所とマイナー作家がほどよく収録されており、初心者も玄人もそれなりに満足できる内容になっていると思います。
巻末の特別対談は「怪奇・幻想小説の系譜を探る」なんて大見得を切っていますが、タイトルよりはずっと砕けた様子で、お二人の思い出話といった感じ。
立風書房新青年傑作選』第2巻「怪奇・幻想小説編」は中島河太郎による同趣向のアンソロジーです。ただし内容は一切重複していません。


内容
阿部鞠哉横溝正史の別名)「舌」(カラー怪奇絵物語 絵:今井俊展)
小さな広口壜を取りあげた。透明な液体を堪(ママ)えたその中には、赤黒いような肉の塊がただひとつぶらぶらと浮かんでいるのだ
江戸川乱歩「悪夢」(芋虫)
須永廃中尉の身体は、まるで手足のもげた人形みたいに、不気味に傷つけられていた。それはまるで、大きな黄色の芋虫であった
妹尾アキ夫「恋人を食ふ」
そのトランクには何が入っていたと思います?驚いてはいけませんよ。塩漬けにした愛しいマルタの屍体です。盗んだのです
直木三十五「ロボットとベッドの重量」
妾(わたし)、あのロボさんの金属の香りが、好きになったの、冷たい、くすぐったい――。男性の表象までもつロボットの秘密とは?
稲垣足穂「びっくりしたお父さん」
花だらけの舞台には黒い布のかかった柩があって、その上に紅いドレスをきせた人形がのせられていました。それから音楽
角田喜久雄「鬼啾(きしゅう)」
氷雨が降りしきっている。道中傘を傾けて、ぢっと向うを見つめている人影――死の世界からよみがえった男の復讐時代劇
城昌幸「間接殺人」
真夜中の電話から聞える殆ど噛みつく様な罵声。それに対して私も云いかえした。その結果、思いもかけない事件が起った
小栗虫太郎「水棲人」
南米の奥地に綾なす大迷路に絡まる大葛藤!!快男児折竹は作者に如何なる秘密を物語ったであろうか?折竹は意外や……
渡邊啓助「地獄横町」
雨宮不泣の遺書「地獄横町」――には現に彷徨(ふらつ)き廻っている牛込の町裏の様子が薄気味悪いまでにソックリ焼き付けてある
横溝正史「片腕」
バラバラに寸断された女の五体のうち、どうしたものか左の腕が見えなかった。その片腕は二重生活をする男の秘密を……
黒沼健「夜半の聲(こえ)」
ドイツの寒村ザルツハイムでのある夜。それは未来の凶行を予知した人間霊魂のいとも不思議な世界の出来事だったのだ
瀬下耽「柘榴病」
危険。島に踏みこむ可(べ)からず。恐るべき伝染病(柘榴)病発生す。全島に生存者なし。医師フェロデしるす――
水谷準「胡桃園の青白き番人」
この胡桃園も今では見る影もなく寂れ果てた。構い手のない広い花畑は、ただもう矢鱈に花が咲くばかりだ。花は浮気だ
小酒井不木「死體蝋燭(したいろうそく)」
わしは坊主となって四十年。その間、ずいぶん人間の焼けるにおいを嗅いだ。あのにおいがたまらなく好きになったのだ……
夢野久作「幽霊と推進機(スクリュウ)」
暴風雨にもてあそばれる船上で二人の船員が無残な死に方をした。その水葬された二人の幽霊は、船を破滅へと導いていく
甲賀三郎「幻の森」
夢――森の中の古井戸に宝物が隠されている。奇妙な男の夢はの古井戸は、はたして実在するのか?戦慄極まりない事件にと
大下宇陀児「蛞蝓奇譚(なめくじきだん)」
「蛞蝓は妖術家である」と作者は言う。ありうべからざる所に、突然出現する蛞蝓は、サーカスを舞台に殺人をひき起こす
橘外男「逗子物語」
深々とと山を掩うた昼尚暗い老杉(ろうさん)が何時(いつ)来て見てもザワザワと揺れ立っている了雲寺と女の子にも見紛う可(べ)き美少年の幽霊

■納涼持ち寄り綺談会
■〈特別対談〉横溝正史VS.中島河太郎「怪奇・幻想小説の系譜を探る」