「国文学 解釈と鑑賞」より2冊



幻想文学」25号に記載あり。
「国文学 解釈と鑑賞」(至文堂)の幻想文学特集を2つ。
1「異端文学の世界」1973 2月
2「ファンタスティック・クオリティ」1979 9月

1冊目「異端文学の世界」は国文学系の雑誌として最初期の幻想文学特集。特集名は当時高まりをみせていた〈異端復権〉の機運を反映してのものでしょう。桃源社から《世界異端の文学》が1966年、《大ロマン・シリーズ》が1968年にそれぞれ発刊されていたことを考えると、遅ればせながらといった感じは否めませんが……
そもそも70年代は「幻想文学」という言葉がそれほど認知されていなかったころで(現在も?)、怪奇、怪談、奇談、夢幻、異色、またはブラックユーモアなどと様々な呼ばれ方があり、定義もずいぶんあいまいでした。国文学を専門とする執筆者たちの文章も、「幻想」という耳慣れぬ言葉にとまどいを隠せず、いきおい、歯切れの悪い口調となっているようです。

「ファンタスティック・クオリティ」とはこれまた分かりにくい表現ですが、「幻想性の特質」といったほどの意味らしい。
中井英夫の序文は、幻想文学が根付かない日本に対する一種の警鐘と読むことができます。氏の指摘した「日本に幻想文学が乏しい→育てる風潮もない→読者も強く求めはしない→外国もので間に合せる」という図式は、30年たった今どれほど改善されたのでしょうか……?考えさせられます。

内容
1「異端文学の世界」1973 2月
幻想文学の異端性について 澁澤龍彦
日本文学における正統と異端 松田修
説話文学における怪奇と幻想 長野嘗一
中世思想の成立と異端の問題 伊藤博之
田植草紙歌謡における性と巫呪 真鍋昌弘
説教浄瑠璃における死と禁忌の構造 岩崎赳夫
かぶき・婆娑羅精神の発生と美意識 諏訪春雄
泉鏡花における幻想と美 三田英英彬
谷崎潤一郎マゾヒズム 大久保典夫
中里介山ニヒリズム 尾崎秀樹
江戸川乱歩と怪奇世界 中島河太郎
稲垣足穂のエロス 宗谷真爾

異端名作案内〈古典〉〈近代〉


2「ファンタスティック・クオリティ」1979 9月
幻想文学の構造 中井英夫
鼎談・幻想文学 笠原伸夫/宗谷真爾/岡保生
月光の土塀――鏡花『絵本の春』管見 由良君美
川端康成――その文学の幻想性をめぐる覚書 河村政敏
吉行淳之介――関係性の中の幻想 柘植光彦
江戸川乱歩――「押絵と旅する男」を視座として 助川徳
夢野久作――『ドグラ・マグラ』の思想 栗坪良樹
倉橋由美子『霊魂』の幻想質――河野多恵子『わかれ』との対比 発田和子
三枝和子論 杉井和子
あらゆる言葉は時計に棲んでいる 寺山修司
作品論――幻想の究明